感謝します。



        彼女とめぐり逢えた、この奇跡に。










      
 プレゼント







        女性が髪を梳く姿は、優しいものだなと思った。

        白い光が部屋の中に注ぎ込む朝、姿見の前にちょこんと座った薫が、長い黒髪に櫛を通している。
        襖を開けた剣心は、そんな彼女の後姿に目を奪われ、かける言葉をつい忘れた。



        「あ、剣心ちょっと待ってね。これ終わったら、朝ご飯手伝うから」
        「あ・・・・・・うん」

        薫の手が柘植の櫛を滑らせると、飴色の櫛の歯が流水のような細い模様を生み出す。
        白い指先が操る癖のないつややかな黒髪が、項を通って彼女の左肩を隠すように流れる。
        薫にしてみれば、それは日常の何気ない行動のひとつであろうが、その所作に剣心は目を奪われた。

        「なぁに? 剣心どうしたの?」
        襖に手をかけ、ぼうっと突っ立ったまま動かない剣心を不思議に思った薫は、身支度の手を止めて振り返る。
        「あ、いや、何でもないでござるが・・・・・・」
        何か言葉を探すように、僅かに首を傾げてから、剣心は意外な言葉を口にした。


        「それ、拙者がやってみてもいいでござるか?」


        言われたことの意味がわからず、薫はきょとんとする。しかしすぐに、「それ」が指しているのが自分の髪のことであると理解し、目を見開いた。
        「えっ?! 剣心が?! で、でも・・・・・・」
        髪の毛とはいえ、立派に身体の一部である。相手が自分の良人とはいえ―――いや、だからこその気恥ずかしさに、薫は即答するのを躊躇した。

        「拙者も昔、薫殿と同じような髪型に結っていたんでござるよ」
        「え、そうなの?」

        一瞬前とは違う意味合いをもって、薫の瞳が大きくなる。
        ささいな事であれ、剣心が昔の自分について話すのは結構珍しいことだから、自然に薫の胸は弾んだ。
        「まぁ、流石にリボンはつけていなかったでござるが」
        「あはは、言わなくてもそれはわかってるわよー」
        軽口に、薫はつい頬を緩ませる。剣心はその隙をつくようにして、するりと彼女の後ろに立った。

        「櫛、貸してみて?」
        「あ、うん・・・・・・じゃあ、お願い」
        どうも、つい承諾してしまうような流れを、意図的に作られたような気がしないでもない。が、鏡越しに見える剣心の顔がなんだかとても楽しそうだったの
        で、薫は仕方ないかとくすぐったい感覚を胸の奥へと押し込めた。


        「ねぇ、いつからその髪型にかえたの?」
        「うーん、はっきりとは覚えておらぬが、流浪人になってから暫くして、かな? 旅暮らしをしていると、髪に手を入れるのが面倒で」
        「ふぅん、でもちょっと、気分がきりっとするわよね。こう、高い位置できゅっと結うと」
        「ああ、それは判るでござるよ、なんとなく気が引き締まるというのかな」

        剣心の指が、髪の中に差し入れられするすると動くのを感じ、薫は時折首をすくめる。
        この感触は知っている。口づけられるとき、ほどいた髪に触れられて掻き乱されるときの、あの感じだ。
        そんなことを連想し、薫はつい赤面しそうになる。黙って任せたままにしているとどうしても照れくささが浮上してくるので、それを紛らすように言葉を続け
        た。

        「じゃあ、たまにはそうやって結ってみてよ。違う髪型の剣心も見てみたいなぁ」
        「いやぁ、拙者は今の方が楽でござるよ。薫殿こそ、たまにはおろしたままでいるといいのに。毎朝結うのは面倒でござろう?」
        「え、 嫌よー! 恥ずかしいもん!」
        「恥ずかしい・・・・・・でござるか? おろしているのも似合うのに」
        「そ、それは嬉しいけど・・・・・・でも、それだとなんだか『女の子』っぽくて、恥ずかしいの」
        「薫殿は、女の子でござろう」
        「んー、そういうのじゃなくて、なんていうか・・・・・・」
        鏡のむこうの薫が、どう言ったものか、と唇に指をあてて考えこむ。


        「あのね、わたし小さい頃から、こんな髪型だったの。ほら、これだと剣の稽古のときに邪魔にならないでしょう」
        頷きながら剣心は、胴着姿の小さな薫の姿を胸に思い描いてみる。子供時代の彼女は、容易に想像ができた。きっと明るく朗らかな、誰からも好かれる
        ような子供だったに違いない。
        「その時分からわたしは、神谷道場の元気な跡取りさん、って見られていたのよね。周りから」

        顔の両側に、ひとすじずつ流れた髪をたらして。残りは束にまとめられ、そこに櫛が入る。
        話をしながらも剣心の手が注意深く動いているのを感じながら、薫は続ける。

        「近所の女の子が悪餓鬼にいじめられたら報復に飛んでいったりしてね、そういう立ち位置だったから・・・・・・」
        「だから、いつも凛々しくしていなければならなかった?」
        「そう心がけていたかなぁ。だから髪型も、凛々しく男の子みたいに結ったりしてね」
        だからこの髪型が、今も一番落ち着くのよ、と。薫はそう言って笑ったが、剣心はそんな彼女がなんだかとてもいじらしかった。


        きつく結った髪は、つまりは心を常に強く保つための、鎧のようなもの。
        女性の身でありながら、父親の残した流派を守っていこうと決意した、その表れ。

        束にした髪を持ち上げるように引っ張ると、隠れていた項が見えた。
        その白い首も、腕も指も何もかもそんなに細いくせに。こうして触れている髪も、絹糸のように艶やかで、柔らかくて指に心地よいというのに。

        どう頑張っても、剣心から見れば薫はまだ十代の、少女だ。守りたいと思わせる存在だ。
        いや、だからこそ―――こんなに細く優しい身体を持っているからこそ、薫は必死に、心は強く雄々しくあろうと努めてきたのだろう。


        「痛くないでござるか?」
        「平気、もっと強くしても大丈夫よ」
        「このくらい?」
        梳いた髪の束を、頭の上のほうでぎゅっとまとめる。引っ張りすぎないよう、痛くしないよう注意をしながら―――

        「・・・・・・おろ? すまない、もう一度いいでござるか?」
        「いいけど、大丈夫?」
        「おかしいな、ちょっと久しぶりだから勝手が・・・・・・」
        「自分のと他人のとじゃ、ちょっと要領が違うわよね。いいわよ、ゆっくりやって」
        

        巧く形作れず崩れてしまった髪を解き、再び挑戦する剣心の顔は真剣そのものだった。鏡に映る彼のその表情に、薫は気恥ずかしさを忘れて頬をゆるま
        せる。
        「もっと、ぎゅーっとしていいわよ」
        「このくらいでござるか?」
        「そうそう、そんな感じ・・・・・・はい、リボン」

        高く結った髪に、鮮やかなつつじ色のリボンを飾る。
        鏡の中に、いつもの薫の姿が完成した。

        「・・・・・・ありがとう!」
        鏡に映った顔が嬉しそうに笑うのを見て、剣心は安心したようにぽんと彼女の両肩に手を置く。
        「できばえは如何でござるか?」
        「はい、大変よくできました」
        振り向いた薫が、剣心を見上げてにっこりと笑う。その笑顔に引き寄せられるようにして剣心は膝を折ると、背中から薫をきゅっと抱きしめた。


        「リボンも、子供の頃からずっとでござるか?」
        「うん、母さんがね、あんまり凛々しすぎるのもどうかと思って、少しでも女の子らしく見えるようにってことで、結んでくれるようになって・・・・・・母さんにして
        みれば、苦肉の策だったんでしょうねー」
        薫は苦笑気味にそう言ったが、剣心は大真面目に「でも、似合っているでござるよ」と返した。嬉しかったので、薫は首をかたむけると「ありがとう」と剣心
        の腕に頬をすりつけた。
        「わたしもね、リボンを結うのは気に入ってるし・・・・・・それもあってね、母さんが亡くなってからもずっとこの髪型なの」
        「ちょっと、西洋の娘さんみたいでござるよな」
        「そうそう! わたしも本で見たことあるわ。もっと細いリボンを、髪とか襟元に飾って―――」

        本の頁の中に描かれた西洋の女性たちは、髪だけではなく手袋や日傘の飾りやブローチなどに小さなリボンの意匠をあしらっており、それが新鮮でとて
        も可愛らしく映ったのを覚えている。ドレスの腰に結ばれた幅広のリボンは文庫に結んだ着物の帯によく似ていて、違う国の衣装なのに不思議だなぁと
        感じ、同時に親近感も抱いたものだった。


        「そういえば、西洋では贈り物を飾るのにも、リボンを使ったりするんですって」
        「贈り物に? 水引みたいなものでござるか」
        「そんな感覚なのかしらね? いずれにせよ、きっと華やかなんでしょうね」
        「成程・・・・・・」
        それは、薫にしてみればなんとなく口にした事柄だったのだが、何故か剣心の声には妙に「納得」したような響きがあった。


        「それはますます、薫殿にぴったりでござるな」


        何がどうぴったりなのか意味がわからず、薫は「どういうこと?」と問おうとして首を後ろにひねる。
        しかし剣心は、振り向いた薫の唇を、おもむろに自分のそれで塞いだ。

        反射的に、薫は目を閉じる。不意の口づけは思いがけず長く、頭の芯がだんだんと、痺れたように熱くなってくる。
        やがて、ゆっくりと唇が離れ、剣心は薫を抱いていた腕をそっと解いた。


        「そろそろ、朝食の支度をしなくてはな」
        「・・・・・・うん、そうだったわね」


        微笑んだ剣心に手を差し出され、薫はそれに甘えて立ち上がる。
        ―――それはいいのだが。でも、なんだか今の口づけで、質問をはぐらかされたような気がする。
        追及したくもあったが、ぼんやりと残る甘い余韻になんとなく気力を削がれた薫は、とりあえず、今は訊かないでおこうかなと思った。




        あくまでも、とりあえず、だけれど。







        ★







        その夜のこと。


        剣心が居間に足を運ぶと、薫はせっせと縫い物をしている最中だった。
        膝を覆っているのはどうやら男物のようだが、それは剣心には見覚えのない色だった。

        「仕立て直しでござるか?」
        「あ・・・・・・そうなの、剣心この色どう?」
        「うん、いい色でござるな」

        それは、夏物の縮だった。白に近い地の色に、青磁色の細かい縞の模様が入って、なんとも涼しげな色合いである。
        丁度きりの良いところだったらしく、薫は縫い終わりを返して止めて、糸を切る。


        「ね、ちょっと合わせてみて」
        剣心を促し、薫は後ろから縫い上がった着物を彼に着せてやる。
        「どう?」
        「うん、ぴったりでござるよ。ありがとう」

        柔らかな生地はまるで誂えたように身体に馴染んで、剣心は口元をほころばせた。薫はそんな彼を見て、嬉しそうに笑う。薫は時折父親の着物を引っ張り
        出しては、生地のしっかりしている、古びていない若向けの色のを選んでは、剣心用に仕立て直していた。今回の縮の明るい色合いは特に彼によく似合
        っていたので、薫は心の中で亡父に感謝した。


        「しかし、相変わらず上手いものでござるなぁ」
        着物を脱ぎながら剣心は袖口に目を落とし、感心したように呟いた。意外にも、と言っては失礼かもしれないが、薫の針仕事の腕前はかなりのものなの
        だ。今回の縮の真っ直ぐな縫い目も、ぱっと見ただけで丁寧な仕事であることがわかった。
        「えへへ、ありがと。お料理よりもお裁縫のほうが、まだマシみたいかな?」
        薫は素直な賛辞に照れながら、年季の入った裁縫箱に目をやる。それが亡母のものであることは、剣心も以前薫から聞いて知っていた。
        「母さんも、縫い物が得意だったのよ。わたしの着物を仕立てた後、よく余り布でお揃いのリボンを作ってくれたの」

        薫は小さく首を傾ける。今朝、剣心が結んだリボンがふわりと揺れた。
        それを見ながら剣心は、居間に来た用事を思い出す。


        「そうそう、風呂に呼びにきたんでござった・・・・・・今沸かしたところだから、薫殿が先に入るとよい」
        そう言われて―――薫はちょっと何かを考えるような表情になり、そして、首を左右に振った。
        「わたし、後でいいわ。剣心先にどうぞ」
        そう言って、剣心から受け取った着物をまた膝の上に広げる。

        「おろ? 出来上がったのではないのでござるか?」
        「うん、糸の始末がちょっと・・・・・・だから剣心、先に入っていいわよ」
        「もう手元が暗いでござろう、明日にしてもよかろうに」
        「平気よー、そんなお婆さんじゃないんだから、ちゃんと見えてるわ」


        剣心は、なんとなく薫の申し出に不自然なものを感じ、心配そうに薫の顔を覗きこんだ。なにか、風呂に入りたくない理由があるのかと思ったのだ。
        「薫殿、どこか具合が悪いのでござるか?」
        「ううん、わたし元気よ」
        「じゃあ、稽古で怪我でもしたとか・・・・・・」
        心配そうに眉を寄せて顔を近づける剣心に、薫は「もう!相変わらず心配性すぎよー!」と、つい笑ってしまった。

        「そうじゃないの、どこも具合は悪くないわ」
        「でも」
        「だって、今日は剣心が髪を結ってくれたじゃない」
        「・・・・・・へ?」
        確かに、そのとおりではあるが。しかし何故今その話になるのかがわからず、剣心は首をかしげる。


        「だから、勿体ないでしょ」
        「何がでござる?」
        「せっかく剣心に結ってもらったんだから、解いちゃうのが勿体ないんだもの。だから、お風呂に入るのはもうちょっと後がいいかなーって、そう思ってたの」


        返ってきた答えは、予想外のものだった。剣心は言葉を失い、薫の顔をまじまじと見る。
        薫は薫で「当然のことを言った」つもりだったので、彼の反応に怪訝そうに眉をひそめた。
        
        「あの・・・・・・わたし、そんな変なこと、言ったかしら?」
        と、剣心は薫の膝の上にあった着物をとり、脇の裁縫箱の上にぱさりと置いた。
        そして、きょとんとしてその様子を眺めていた薫に向かって腕を伸ばし、抱き寄せる。


        「・・・・・・まったく、薫殿ときたら」
        「え?」
        「どうしてそう、可愛いことを言うでござるかな」
        「え? あっ、けんし・・・・・・んっ!」


        ぐい、と顎を捕まえられて口づけられ、薫は思わず目を閉じた。
        身体が傾き、押し倒されそうになるのを感じて、慌てて畳に手をついて支える。


        「・・・・・・ね、ちょ、ちょっと待って・・・・・・」
        熱っぽい口づけを受けながら、薫は喘ぐように言葉を紡ぐ。
        絡みついてくる、この腕の感じからして―――きっとこれは、接吻だけでは済まない、ような気がする。

        「ねぇ・・・・・・お風呂、沸かしたんでしょ? だから、その、後で・・・・・・」
        これまた至極当然のことを言ったつもりだった。が、剣心は薫を拘束したまま何か考えているように瞳を動かすと、名案を思いついたといわんばかりの笑
        顔になった。


        「一緒に入る?」
        「って、なんでそうなるのー?!」
        「え、嫌でござるか?」
        「い、嫌よだって恥ずかしいもん・・・・・・って、やーっ! ほどかないでー!」

        抗議の声は意に介さず、剣心は今朝自分が結んだリボンの結び目を緩めた。彼女の髪をひっぱらないように気をつけながら、するりとリボンをほどく。さら
        り、と黒髪が流れ、僅かに乱れた襟元を隠した。
        「あああ・・・・・・ほどかないでって、言ったのにぃ・・・・・・」
        心底残念そうに呻いて、薫はじとりと下から剣心を睨みつけた。そんな彼女を宥めるように、剣心はおろした髪を柔らかく撫でてやる。


        「また今度、結ってあげるでござるよ。それに、贈り物は開封しないと、意味がないでござろう?」


        その言葉で、薫は思い出した。
        今朝も、彼はそんなようなことを口にしていて―――


        「ねぇ、その『贈り物』ってどういう事?」
        「おろ?」
        「剣心、朝にも言ってたじゃない。贈り物をリボンで飾るって言ったら、わたしにぴったりだ、って。どういう意味なの?」


        今朝方は、何故かはぐらかされたような感じだったから追及しなかったけれど、またしても同じようなことを言われると、流石に気になってしまう。
        文脈からすると―――わたしが「贈り物」みたいだって言ってるようだけれど、それって、どういう事だろう。

        薫は剣心にしがみつきながら、じっと彼の顔を見つめた。剣心は質問に答えるか答えまいか少しの間逡巡したが―――自分から抱き寄せて、あまつさえ
        襲いかかろうとしているこの状況で、身体を離して薫の視線から逃れることも出来ない。やがて剣心は観念したような顔で、薫の瞳をまっすぐに見据えた。


        「・・・・・・薫殿」
        「はい」
        「今から拙者、かなり気恥ずかしいことを言うでござるよ?」
        「・・・・・・? うん、わかった」
        「薫殿は、拙者にとって『贈り物』なんでござるよ」


        簡潔に言ったつもりだったが、言葉があとひとつ足りなかった。
        そんなわけで意味を理解しきれなかった薫は、首を傾げてさらに尋ねる。
        「贈り物って・・・・・・えーと、誰からの?」
        「・・・・・・やっぱり全部言わないと駄目でござるかぁ・・・・・・」

        剣心は口の中でぐぐぅと唸ってから、少し首を前に倒した。
        こつん、と自分の額を薫のそれにぶつけて、睫毛が触れそうな距離で黒い瞳をのぞきこむ。



        「神様からの、贈り物でござる」



        薫の大きな目が、更に大きく見開かれる。
        と、次の瞬間、身体がふわりと持ち上げられる感覚に、薫は慌てて声をあげる。

        「きゃ! ちょ、何、剣心っ?!」
        「すまない、覚悟はしていたがやはりめちゃくちゃ恥ずかしかった」
        「え、でも、わたしは凄く嬉し・・・・・・って何処に行くの?!」
        「とりあえず風呂に入ろう。うん、そうしよう」
        「とっ、とりあえずの意味がわからないんだけど! だから恥ずかしいから嫌だってばー!」


        抱き上げられた薫は頬を真っ赤に染めて訴えたが、剣心はそれを無視して風呂へと歩を進める。
        ふたりの声は廊下の先に消えて、居間には仕立て直した夏着物と、先程まで薫の髪を飾っていたリボンが残された。










        あの夜出逢ったこと。
        君を好きになって、君も同じ気持ちでいてくれたこと。
        君と、結ばれたこと。

        それらはみんな、奇跡のような出来事だと思っているから。
        だから、こんなにも大好きで大切でたまらない君は、神様が俺にくれた贈り物なんじゃないかと。

        そんなことを、実は結構本気で考えているのだが―――薫は身体を縮こまらせるようにして湯船につかりながら、ひとつ訂正をした。



        「出逢えたのは奇跡かもしれないけれど、わたしは神様の意思じゃなくて、自分の意思で剣心を好きになったんだからね?」
        「・・・・・・うん、拙者もでござるよ」



        剣心は笑って、薫を抱き寄せた。
        小さな悲鳴があがり、ざば、と湯船から湯があふれた。











        感謝します。



        俺を愛してくれる、君に。
        そして何より、愛することを許してくれた、君に。













        了。





                                                                                          2013.06.20





        モドル。 もしくは おまけ に続く。