そりゃ、男と女じゃ身体のつくりが全然違うということくらい解っているけれど、それにしてもこの柔らかさはつくづく不思議だ。
それとも、数多の女性のなかでも君は特別、ふわふわ柔らかくて気持ち良いのだろうか。
そう思いながらふにふにとほっぺたをつまんだり指先で撫でたり押したりしていたら、君は「あの・・・・・・ちょっと」と明らかに戸惑っている声を漏らした。
「剣心・・・・・・わたし、縫い物してるんだけど・・・・・・」
うん、わかっている。
むしろ、君が縁側にちょこんと座って針仕事をしていたから、君に触れたくなったんだ。だって、ぽかぽかとあたたかな陽光があたる君の頬は、ひかりを受
けて輪郭が白くとろけそうに見えて、いつもより更にやわらかそうで―――だから触らずにはいられなくなったわけで。
「ね、針持ってるから、危ないってば」
「じゃあ、下に置くといい」
「もう・・・・・・」
君は困惑のため息をつきながらも、おとなしく縫いかけの着物と針とを下に置いた。一度駄々をこね始めると最後まで我を通さずにはいられない俺のこと
を、君はちゃんと理解してくれている。いや、諦めの境地というやつなんだろうか。
君の身体を引き寄せて、改めて、頬に触れる。
―――ああ、やわらかいな。そして、あたたかい。
この温度は、君の体温と、今も縁側にさんさんと降り注ぐ太陽の熱だろう。
両のてのひらでつつみこむようにして、温もりを堪能して、手で触れるだけじゃ足りなくなったので、唇で触れる。
すべすべした頬に、口づけを繰り返して。食むように肌の上で唇を動かすと、君は「食べないでー・・・・・・」と小さな声で訴えた。その言い方が可愛かったの
で、ぱく、と唇で挟むようにして、鼻の先に噛みつく。きゃーと悲鳴があがったが、その声には笑いが混じっていた。よかった、嫌がられてはいない。
できることならほんとうに食べてしまいたいなと思いながら、もう一度頬に口づける。頭を抱きこみながら髪を撫でると、甘い香りがした。もっと欲しくなっ
て、そのまま藍色のリボンに指をのばす。
髪がほどかれるのを感じて、君の肩がぴくりと震えた。構わずに、指を差し入れかき乱す。ここも、陽射しのせいであたたかい。
「どうして、こんなにやわらかいんでござるか?」
ふわりと花のような香りが立ったのを吸い込みながら、かねてよりの疑問を口にしてみる。こんな子供じみた疑問にも、君は真剣に答えを探してくれている
ようだ。「えー?」と困ったように首をひねった末、「そんなの、わからないわ」と真面目に返してくれた。
「っていうか、別にそんな、やわらかくもないと思うんだけど・・・・・・」
「いや、とってもやわらかいでござるよ」
「え、ねぇちょっと待って!ひょっとして、それってわたしが太ってるって言いたいの?!」
「太ってないでござるよ」
君があげた怒り声を軽く受け流して、片手で首筋に触れる。薄い皮膚を指の腹でさすると、君が喉の奥で息を飲み込んだのがわかった。
「太っているどころか、ここなんて、こんなに細いのに」
片手でも包みこんでしまえそうな、細い首。つぅ、と手で撫で下ろすようにすると、君は切なげに目を細めた。ああ、いい表情をするなぁ、と思いながら、君
の着物の袷に手をかける。
「きゃ・・・・・・!」
悲鳴に構わず、押し開いて白い胸を露わにさせる。
普段は(俺以外の)誰の目にも触れることはない、この肌。ここは日の光に晒されることがないから―――この色は、君の生まれたときのままの肌の色な
んだろうな、と思う。透き通るように白いその乳房に顔を埋めると、やっぱりここも、やわらかい。
「やっ・・・・・・!剣心、やめて・・・・・・!」
ちゅ、と吸い付くと、君がぶんぶんと首を横に振ったのを感じた。抗議の声の音量が控えめなのは、きっと誰かに聞かれるのを恐れてのことだろう。
君が嫌がるのは当然だ。何しろ今はお天道様が高くのぼった真っ昼間で、場所は縁側。ほとんど屋外と言ってもいい。明るいところで裸にされるだけでも
恥ずかしいだろうに、そこに誰かに見られるのではないかという恐れも加わっているのだから。
もっとも、君のこんな姿を他の人間に見せるだなんて言語道断な訳で。だから誰かの気配を感じたならば、すぐに奥に引っ込むつもりでいるのだが―――
「あっ・・・・・・だ、駄目・・・・・・!」
今のところ、近くに他人の気配はない。もう暫くは大丈夫だろうと思い、ぐいっと体重をかける。
頭をぶつけないよう手で庇ってやりつつ、君の身体を縁側に押し倒す。抵抗しようともがく腕を捕まえる。両の手首をまとめて掴んで、頭の上の床に押しつ
けるようにして、自由を奪う。
本当に―――なんて華奢なんだろう。
君の手が必死に抗おうとしているのが伝わってくる。懸命になっているのはわかるけれど、この力では拘束を解くのは無理だろう。やわらかい肌の下にあ
る骨もやっぱり細くて、きっと、少しばかり力を加えたら簡単に折れてしまうだろう。君の剣の技量は確かなものだけれど、それでもやっぱり、竹刀を掴むこ
の腕は、細くか弱い女性の腕だ。
首筋も腕も、指だって腰だって―――どこもかしこも、こんなに細い。
「ふ、ぁ・・・・・・っ!」
空いている手で胸のふくらみを愛撫すると、君は泣きそうな声をあげる。いや、きつく閉じた目蓋の向こうにある瞳は、既に涙で潤み始めているのだろう。
この胸も頬も、まるいお尻も花びらみたいな唇も、どこもかしこもやわらかくて、ちょっと扱いを誤れば壊れてしまうんじゃないかと、いつも不安になるほどで
―――だから、不思議でならない。
こんなに、頼りなく細くて、壊れそうにやわらかい身体のいったいどこに―――あんなにも強い心が宿っているのだろうか。
じきに、捕まえた手首から力が抜けた。抗うことを諦めたようだ。
掴んだ手を離して、君に覆い被さる。唇を重ねると、君は今の今まで抵抗してきた手をのばし、すがりついてくる。
口を開かせて、深く求める。舌で探る君の内側も、やはりやわらかくて気持ちいい。
「けん、しん・・・・・・」
口づけの合間、苦しげな呼吸とともに名前を呼びながら、君は無意識にか俺の頭を抱きこむように腕を動かす。
細い指が髪を撫でる、優しい感触。こんなふうに触れられるたびに、君に心ごと包みこまれているような気分になる。
辛い想いをさせてしまった。何度も何度も泣かせてしまった。たくさん、心に傷を負わせてしまった。
それでも君は俺の手を離さずに、ずっと傍にいてくれた。俺を好きでいてくれて、いつも笑っていてくれた。
どんなに悲しんでも、どんなに傷ついても、その痛みを乗り越えて俺に笑顔を向けてくれる、その強さに―――俺はずっと、救われてきた。
一生かけて、君のことを守ると誓った。けれど実際のところは、俺のほうが君に包み込まれて、君に守られているのかもしれない。
揺るがない想いと、どこまでも深い優しさに包まれて。光のような笑顔と、躊躇わずに前を臨む強い意志とに、支えられて。
「・・・・・・剣心?」
唇を離して、じっと無言で君の顔を見おろす。突然悪戯の手を止めて黙りこんだ俺に、君は不安そうな眼差しをむける。
「ああ、いや・・・・・・意地悪をしてすまない。やはり、うちの中に入ろうか」
その言葉に、君はほっとしたように表情を緩め、こくりと頷いた。抱き上げて、奥の部屋へと向かう。陽の光がふりそそぐ縁側には、裁縫道具が取り残され
る。
いいかげんに広げた敷き布団の上に、君の身体を横たえる。
屋外ほどではないが、昼間なのだから室内でも充分明るいわけで、当然君は羞じらって身体を縮こまらせる。その様子がまたかわいかったから、布団の
上に押さえこみつつ、わざとゆっくり着物を脱がしていった。
やがて素裸になった君のやわらかいところのひとつひとつに触れて、唇を落として噛みついて、舌を這わせてゆく。
―――ああ、やわらかいな。
きっと君は、数多の女性のなかでも特別ふわふわ柔らかくて気持ち良い。
そしてきっと、特別優しくて強い心を、このやわらかな身のうちに抱いているのだろう。
俺の心を、守って支えてくれる、やわらかな君。
そのことにありったけの感謝の気持ちをこめながら、抱きしめる。
そして君のいちばんやわらかいところに触れると、君は涙の混じった声で、ひときわ甘く、可愛く鳴いた。
了。
2015.09.25
モドル。