きっと、男のひとというものは、概して理屈っぽいものなんだと思う。
理屈っぽいというのか、理論的というのかしら。納得できる答えを欲しがるというのかしら。
そういえば昔父さんに、「この稽古をしたらどんな効果があってどう上達できるんですか」と訊いてきた門下生がいた。それに対して父さんはきちんと理論
立てて返答していて、横で聞いていたわたしは「なるほどなぁ」と頷いたものだった。
身体を動かして実地で覚えるだけじゃなく、頭できちんと理解することも上達に繋がる、ということなんだろう。教える側となった今、時々そのことを思い出
す。
そして、うちの旦那様もやはりそういうところがあるようで。たとえばお隣から「作りすぎたから」と煮物なんかをお裾分けしてもらって、それがうちとは全然
違う味つけで尚且つ美味しかったりしていたら、「美味しいでござるなぁ」と言うより先に「どうやって作っているのでござろう」と疑問を口にする。そして器を
返す際に作り方を訊いていたりする。(そしてその回答が大雑把だった場合、お礼を言いつつも釈然としない顔をしていたりする)
言葉や数字で、納得ゆくきちんとした答えを求めたがる。
それは、悪いことではないと思うのだけれど、でも。
「どうして、こんなに気持ちいいのでござろう」
身体中、あなたの余韻に満たされて。余韻というかまだ震えがおさまっていないくらいで。
そんな有様で素裸で敷布に倒れているわたしにむかって、あなたは不思議そうに呟く。
・・・・・・訊かずにいられないほどきもちよかったということなんだろうけれど。わたしもすごくきもちよかったから今こんなふうになっているのだけど。
それはそうとして、そんなことを真面目に訊かれても、困る。
「・・・・・・あなたが、わたしを好きだからじゃない?」
それ以外に答えが浮かばなかったので、そう答える。
あなたは目を丸くして、それから「成程、確かにそうでござるなぁ」と嬉しそうに相好を崩す。
「薫は?」
「・・・・・・え?」
「気持ちよかった?」
・・・・・・わかっているくせに、訊いてくるのが小憎らしい。「わかっているけど言わせたい」という気持ちも、わからなくも、ないけれど。
よかった、と小さく口の中で呟くと、「聞こえない」と顎を指で捕まえられた。
「・・・・・・あ!」
もう片方の手が、腿の間にすべりこむ。やだ、今、そんなふうに触られたら、また―――
「けん・・・・・・しん」
ふるえる腕を差しのべて、首にしがみつく。頭の中が熱くなって、熱くて熱くて、あなたのことしか考えられなくなる。
「ねえ、聞こえない」
きっと、男のひとというものは概して理屈っぽいものなんだと思う。
理屈っぽいというのか、理論的というのか納得できる答えを欲しがるというのか―――
「・・・・・・す、き・・・・・・」
気持ちいいと答えるかわりに、そう言った。
もう、熱に喘いだ掠れ声しか出せないけれど。
でも、あなたはその言葉に満足したようだ。
唇が重なる。優しい接吻は次第に熱っぽさを増し、やがて呼吸を奪われる。
くるしい。でも、きもちいい。
これも、きっとあなたのことが好きだから。
「好き・・・・・・」
唇の上でささやくあなたの声に、心の内側を甘くくすぐられる。ああ、ほら、やっぱり。
好きだから、こんなにきもちいい。
身体のなかから、それだけじゃなくて。好きだから、心のなかから、こんなにも。
どれだけ互いのことを好きなのか、伝えるために、確かめるために、抱き合って身体を重ねる。
そして、それがこの答え。
今感じている、心と身体とを震わせるこの感覚が―――
「大好き・・・・・・」
言葉は、自然にこぼれ出た。
それこそが、きっと正解。
了。
2017.05.28
モドル。