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        「んー!おいしい!悔しいけど、恵さんってやっぱり料理上手よね・・・・・・」



        恵が持ってきた海苔巻きを口にした薫は、大きく息をつく。おいしさに感嘆するのと、料理の腕をうらやむのと、両方が入り混じった複雑なた
        め息だった。


        「それ、近所の母さんたちと一緒に作ったって言ってたぞ。今日はみんな大忙しだから炊き出しだって」

        「え、なにそれ何かあるの?さっきからわたしばかり蚊帳の外なんだけど、ほんとに何を企んでるの?あんたも知ってるんでしょ、吐きなさい」
        「飯食ってるときに吐けとか言うな。てか、内緒にしろって言われたから、俺も言わない」
        「もう、何なのよー!気になるじゃない!」


        思いがけず豪華になった、本日の昼食。食べきれないくらいのおはぎや海苔巻きを前に、薫と弥彦は手と口をせわしなく動かしながら、そん
        な応酬を続けている。


        恵は「薫には黙っていろ」という旨のことを言っていた。
        けれど、「薫にだけ内緒にしている、何かがある」という事は、ちっとも隠そうとしていない。これは、あからさまに嫌がらせではないか。しかも
        剣心と弥彦もその片棒を担いでいるとなれば、薫としては追及しないわけにはいかない。


        一方、先ほどさんざん墓穴を掘ってしまった剣心は、押し黙ってもくもくと箸をすすめていた。これ以上まずいことを口にしないよう、食べることに
        徹するつもりらしい。



        「恵さん、帰り際に『準備がある』って言ってたし、近所のみんなで何か面白いことでも企画してるの?・・・・・・って、剣心に聞いても教えてくれ
        ないわよね」

        薫は、矛先を剣心に向けてみた。
        拗ねた口調で、上目遣いに睨まれた剣心はぴたりと箸を止めた。そしてうわずった声で―――
        「いや、その薫殿、実は―――」
        「って、そんな簡単に白状するのかよ」!
        あっさり陥落しそうになったのを、すんでのところで弥彦が遮る。
        その声で、正気に戻ったかのようにはっとした剣心は、あわあわと視線を泳がせたかと思うと、おもむろに薫が作ったおはぎを掴んで頬張った。

        「・・・・・・いやぁ、薫殿、腕を上げたでござるな。おはぎ、とっても美味しいでござるよ。特にこのあんこがちょうど良いい柔らかさに炊けていて、
        甘さも程よくて、以前作ったのに比べると天と地の差でござるなぁ」

        どうやらおはぎの感想で話の流れを変えようとしているらしい。質問はうやむやにされたが、手放しで褒められたのは嬉しくて、薫は「ありがとう!」
        と、ぱっと顔を輝かせた―――が、すぐさまばつが悪そうに肩をすくめる。


        「でも、えーと、言いにくいんだけど・・・・・・そのおはぎ、あんこは前川先生の奥さんが作ったやつなの」


        さらにまた、墓穴を増やしてしまい、剣心は顔色を失う。


        「なんだよ、じゃあこのおはぎ、お前が作ったのじゃねーじゃん」
        「作ってるわよー!中のお米炊いたのも潰したのも教えてもらいながら自分でやったし、あんこで包んだのもわたしだもん!」
        「あー、それはすげえ納得。恵が作ったのとくらべると形が・・・・・・」
        「もー!たしかに恵さんの方がきれいだけど、わたしだって前に作ったときより進歩してるでしょ?!こういうのも剣術の稽古と一緒で、何度もやって
        るうちに上達していくものなの!」


        薫と弥彦がかしましいやり取りをしている隣で、剣心はものを言う気力も失った様子でうなだれていた。








        「ごっそーさん!あー、悔しいぜ、俺としたことがもう限界・・・・・・」



        ばたーんと畳の上に仰向けに身を倒した弥彦は、無念そうな口ぶりで腹をさする。

        薫と恵、それぞれのおはぎはどちらも美味しくできていたが、いかんせん、三人で食べるには量が多かった。余ってしまったおはぎを前に薫は「どうしよ
        うかしら、夏のおはぎは足が早いのよね」と首をひねる。



        「美味しいうちに、ご近所にお裾分けしてこようかしら」

        「あ、それなら左之助に持って行ったらいいんじゃねーの?この後会うんだし」
        「ああ、そうでござるな。どうせ会うことだし、拙者が届けるでござるよ・・・・・・」
        弥彦の提案に、剣心は力なくのろのろと頷く。

        「・・・・・・ふーん、後で会うってことは、左之助も一枚噛んでいるんだ」
        ぼそりと薫がつぶやき、男ふたりは「しまった」という顔になる。剣心に恨めしそうな視線を向けられて、弥彦は「悪ぃ、今のは俺がしくじった」と謝りつつ、
        勢いよく立ち上がる。


        「じゃっ、俺赤べこ行ってくっから!剣心、また夕方に!」
        「あ、ちょっと、逃げる気?!っていうか夕方って言った?夕方に何かあるのね?!教えなさいよー!」



        去り際に、とどめを刺すような失言を残して、弥彦は居間から逃げ出した。
        薫が、剣心の方に首をめぐらせると、剣心は無言で―――冷や汗を流しながら、目をそらした。










        3 へ続く