「ちょっと、安直でござったかなぁ」
「そんなことないわよ。ちゃんとふたりでよーく考えて、この名前にしたんじゃない」
父親である、剣心の名前から一字を。
祖父である、神谷越路郎から一字をとって、「剣路」。
ふたりの視線の先では、そう名付けられた我が子がすやすやと寝息をたてている。
今日は門下生の子供たちがたっぷり遊び相手になってくれていたので、すっかりくたびれたのだろう。布団に入るなり、剣路はすぐに健やかな眠りに落ち
てしまった。あどけない寝顔を眺めながら、剣心は寄り添う妻の肩を抱き、髪を撫でる。地肌をくすぐるように指を動かすと、薫は心地良さ気に目を細めた。
「いや、勿論拙者はよい名前だと思ってつけたでござるよ?音の響きも、よい響きだと思っているし・・・・・・」
今のところ苦情は申し立てられていないが、何年か経って成長した息子から「安直すぎる」と文句を言われる可能性も、ひょっとしたらあるのではないだろ
うか。しかし薫は、そんな良人の心配を「大丈夫だってば」と笑い飛ばす。
「父さんだって孫の名前に一字使ってもらったんだから、絶対喜んでいるわよ。それに、単に字を取っただけじゃないでしょ?ちゃんと、願いをこめてつけた
名前だもの」
人を守り、人を活かす剣を振るえる剣士になれるように、と。
そして、人として剣士として、正しき路を歩むようにと―――そんな想いをこめてつけた名前である。
「剣路がもう少し大きくなって、自分の名前にこめられた意味を理解したら・・・・・・きっと、誇りに思うはずよ」
薫はそう言って、彼に頭をすり寄せる。剣心は「そうでござるな、そう願うとしよう」と答えて、ようやく頬をほころばせる。熟睡中の剣路に、起きる気配はな
い。剣心はそっと薫の頬を手のひらで包むと、唇にふわりと口づけた。
優しい感触に、薫は静かに目を閉じる。剣心は唇を重ねたまま、てのひらを少しずつ、下へと移動させる。細い首筋を撫でて、薄い寝間着越しに鎖骨を指
でなぞって。乳房に触れると、薫は唇の上で「あ、こらっ」と悪戯っ子を叱るように咎める声を出す。それは多分に、笑い混じりの甘い囁き声だったが。
乳房のやわらかさを確かめるようにして、更に下へ。
そして剣心は、薫の膨らみはじめたお腹に触れる。
「男の子か女の子か、どちらでござるかな」
「どちらにしても、いい名前を考えなきゃね」
ふたりの子供として生まれてきてくれることに。
そして、剣路のきょうだいになってくれることに、感謝をこめて。
じきに会えるこの子への、最初の贈り物になるような―――名前を。
Calling you 了。
2016.07.24
モドル。