ずっと近くに

     







        今日、あなたから手をとってくれた。

        お墓参りの帰り道、初めて手を繋いで歩いた。

        景色や建物の綺麗な場所を選びながらそぞろ歩いた。

        「そろそろ、葵屋に帰ろうか」

        夕焼けの蜜柑色と、夜の始まりの群青が混じり合う空。

        京の街の空に、ぽつんと宵の星がひとつまたたいた。

        「あ・・・・・・ごめん剣心、疲れたよね?」

        繋いだ手から伝わる体温が嬉しくて愛おしくて。

        ずっとこのまま歩いていたいなと、無意識に思っていた自分に反省する。

        「まだ怪我が治っていないのに、ごめんね」

        「かまわぬよ、拙者も薫殿とこんなふうに歩いてみたいと思っていたし」

        頬が赤くなるのを、自覚した。

        「・・・・・・どうしたの?今までそんなこと言ったことなかったのに」

        「まぁ、いろいろと吹っ切れたからかな・・・・・・もう遠慮するのはやめるでござるよ」

        繋いだ手を、くいっと引かれる。

        肩が触れ合って、距離がぐっと縮まる。

        「ずっと、そばにいることも、遠慮しない」

        距離がなくなるくらいにね、と、あなたは付け加えた。

        「・・・・・・ずっと?」

        「そう、ずっと」

        夕暮れ時の秋風が首筋をかすめて通り過ぎる。

        ほてった頬にはその冷たさがちょうどよい。

        「・・・・・・わたしも」

        すぐに触れられるくらい、近い距離に並んだ横顔。

        これからはこの距離で、ずっと一緒に歩いていこう。

        「ずっと、近くにいるね」










                                                           
右の耳からかすかに聞こえた「ずっと近くにいるよ」


         (了)

                                                                                    2012.02.12






        モドル。