「・・・・・・何が怖いの?」
横たわったままあなたの頭を抱く。くっつけた頬から伝わる、かすかな震え。
まるで、ついこのあいだまでのわたしみたい。
はじめてあなたに抱かれた夜、怖いのと嬉しいのと幸せすぎるのが入り混じって震えていたわたし。
「あの時は、拙者だって震えていたよ」
「そうなの?」
「そのくらい、信じられないくらい、嬉しかったんでござるよ」
「じゃあ、今はどうして?」
「怖いから」
腰に背中にまわされた彼の腕が、わたしの形を確かめるかのように動く。
「こうして、一緒にいられることが嬉しくて、幸せだから・・・・・・怖い」
嬉しいから、幸せだから。
だからこそ、考えてしまう。それを失うときの、恐怖を。
あなたはまだ覚えているのね?昔、愛したひとを失った痛みを。
そしてあのとき、わたしを失った痛みも。
「・・・・・・でも、わたしは生きて、ここにいるわ」
こんな夜の中、ふと後ろを向けば、過去があなたを手招くのかしら。
だけどわたしは、今のあなたといたい。未来もあなたといたい。
「もう、二度といなくならないから」
こつん、と。額と額をあわせる。
あなたの眉間の奥に流れる冷たい水に、わたしの熱をまぜるように。
「目、閉じてみて」
「暗いよ」
「でも、夜がないと、明日は来ないものでしょう?」
静かに、息をひそめて、あなたに囁く。そっと、子守歌を紡ぐように。
「この夜の先に、ちゃんとあなたの未来もあるわ」
「薫殿と、一緒に?」
「当たり前よ、飽きるくらいずーっと一緒にいるに決まっているじゃない」
悪戯っぽく言う台詞に、僅かにあなたの口の端があがった。
「・・・・・・そんなの、飽きるわけがないでござるよ」
目を閉じたまま、あなたは腕に力をこめる。
大丈夫、あなたはもう暗闇の中にはいない。あなたはもう、光を見つけられたのだから。
だから、ねぇ、わたしのこの身体こと、どうか未来を両手で抱きしめて。
後ろ向けば過去は手招くでしょう だけどあたしは今のあなたといたい
了。
2018.07.20
モドル。