はっと目をひくほど白いおとがいを反らせて、夜空を仰ぐ。
薄い藤色の寝間着は柔らかな曲線を目立たせて、斜めに崩した膝はどこかしどけない。
夏の宵、縁側に座って月を眺める君。
月下のかぐや姫みたいだなぁと思ったところで苦笑する。我ながらずいぶんと少女趣味な連想だ。
「夏とはいえ、湯冷めするでござるよ」
突然声をかけられた君は、ちょっと驚いた顔でこっちを見る。
しかしすぐに楽しげに唇の両端をきゅっと上げて、頭上を指差した。
「ほら、蜜柑みたいなの」
「へ?」
「今日のお月様、まんまるで橙色で、大きな蜜柑みたいじゃない?」
確かに、今夜の満月は白でも黄金色でもなく、鮮やかに濃い橙。
あれが蜜柑ならさぞかし甘く熟していることだろう。
「・・・・・・は」
気の抜けた呟きが、笑い声と混じって零れた。
その反応が気にくわなかったのか、途端に君は眉を寄せてそっぽを向く。
「今、子供っぽいって思ったんでしょ」
「ああいや、そうではなくて・・・・・・」
くすくす笑いを洩らしながら君のとなりに腰をおろす。
つんと尖らせた唇が愛らしく、月明かりに長い睫が作る翳りは妙に色っぽい。
少女と大人の間の年頃の娘らしい、それは危うい均衡の美しさ。
「拙者は月ではなく・・・・・・薫殿のほうを見ていたから。かぐや姫みたいだと思って」
大きな瞳を丸くして、頬が朱をさしたように紅く色づく。
「・・・・・・わたしは、月に帰っちゃったりしないもん」
「うん、帰っちゃ困る」
恥ずかしそうに目を伏せる様子が可愛らしくて―――ああ困ったな、このまま抱きしめて口づけてしまいたい。
そう思いながら、小さく手を動かしたところで、前髪を揺らす夜風に君はくしゃみをした。
「風、冷たくなってきたわね」
「うん・・・・・・中に入ったほうがいいでござるな」
伸ばしかけた手を引っ込めながら、気づかれないようこっそり肩をすくめる。
いつか、こんな場面で自然に唇を重ねることが許されるふたりになれますように。
そっと背中で、蜜柑色の月にそう祈った。
「どうか同じ温度で時までも止めるくらいのkissがいつかできますように」
(了)
2012.02.12
モドル。