「試合の相手は、リボンを結った少女だった」
「お願いします」
おや、と思う。
足を軽く踏み出した少女の構えは、堂に入っている。
先程まで笑みを湛えていた大きな瞳が、真剣な色を帯びていた。
・・・・・・これは、ひょっとして。
剣心は、この日初めてまともに竹刀を構えた。
向かい合う二人の雰囲気に飲まれたのか、それまで賑やかに試合を楽しんでいた周囲の客たちの声も、静かになる。
剣心は、少女を誘うように、ゆっくりと竹刀の先を動かした。それに応えるように、少女が撃ちかかる。
竹刀がぶつかり合い、離れる。またぶつかる。
打ち合いになる。繰り返される少女の攻撃を剣心が受けるような形になり―――剣心は感心した。
なるほど、この娘・・・・・・強い。
それは遊び半分などではなく、真剣に鍛錬を積んでいる者の腕だった。
剣心は受け止めた一撃を、やや力を込めて返した。少女の竹刀の先が、一瞬空を泳ぐ。その隙をついて、竹刀を横に薙ぐ。
少女の胴に一本が打たれるかと誰もが思ったが、少女は身軽に跳びすさりそれを難なくかわした。
・・・・・・面白いな。
自然、笑みがこぼれた。それを見て、少女も微笑んだ。
試合の最中とは思えぬほど、とても優しい表情で。
少女が息を整えるのを待って、剣心は竹刀を構え直す。まっすぐに少女が飛びこんできた。彼女の竹刀を剣心が受けとめて、高い音が鳴った。
一度は静かになった観客達だったが、いつの間にか歓声が戻っていた。先程までの勝負とはうってかわって長丁場になってきたこの試合を、誰もが興
奮した様子で応援する。
やがて、剣心は少女の頬が赤く上気しているのに気づき、「そろそろかな」と思う。
ばしぃ、と撃ち込まれた彼女の一撃を、打ち返さず深く受け止める。そのまま、ぐぅ、と押し戻す。
少女にむけて体重をかけ、じりじりと押さえ込む。くぅ、と少女が小さく息を漏らした。力比べなら明らかに彼女に分が無い。
更に力をこめる。なんとか踏みとどまろうとする少女の着物の裾が割れ、白い脚がのぞく。剣心はそこからあわてて目をそらした。
と、少女が、突然力を抜いた。
同時に、竹刀の角度をずらす。
がくん、と剣心は前にのめる。力ではかなわないと判断した彼女は、逆に彼の力を利用して「受け流した」のだ。
剣心が体勢を崩した。形勢は少女に優位になったと誰もが思った。
しかし、それも一瞬の事。剣心は彼女が受け流すであろうことは計算のうちだった。すぐさま深く身を沈めるようにして、揺らいだかのように見せかけた
竹刀を、下から上へと跳ね上げる。
少女の竹刀が宙に舞った。
手首から伝わった衝撃に耐えきれず、少女は仰向けに倒れこむ。
落下した竹刀が、地面で乾いた音を鳴らす。観客は皆、はっと息を飲んだ。
起き上がろうとした少女に剣心が歩み寄る。尻餅をついた格好で、少女は顔をあげた。
視線がぶつかる。
剣心は身を屈めて、少女にむかって手を差し出した。
少女ははにかむように微笑んで、はっきりとした声で言った。
「・・・・・・参りました」
小さな白いてのひらが、剣心の手を握る。
喝采が湧き起こった。
モドル。