君の隣











        「・・・・・・痛く、ないの?」
        片腕で抱きしめた君に、心配そうに尋ねられる。
        診断によると、三角巾で吊った右腕の包帯が取れるまで、あと数日かかるらしい。
        それまでは、君をつかまえて抱きしめるのに、左腕一本しか使えない。
        それは大変もどかしいけれど、そんなに難儀もしていない。
        優しい君は、怪我人を邪険に扱うことなどできる筈がないから。
        肩を掴んで抱き寄せて胸に閉じこめると、戸惑いながらも結局は大人しく身を任せてくれる。
        「大丈夫、もう殆ど治っているでござるよ」
        傷を押しつぶしてしまうのではないか、と心配する君にむかって、笑ってみせる。
        実際、完治するのはもう目の前なのだし、それに―――
        「むしろ、こうしていたほうが痛くないし」
        そう言って、君の身体を掻き抱く。
        こうして君を抱きしめていると、痛みなんて何処かに飛んでいってしまうから。
        君のぬくもりを感じるのに忙しくて、傷を意識する暇などなくなってしまうから。
        ―――と、腕の中、君がそっと首を動かした。
        こちらを見つめている、大きな瞳。
        それが、ふっと閉じられ、頬に吐息がかかる。
        「・・・・・・こうすると、痛くない?」
        十字傷に唇を寄せた君が、小さく囁いた。
        優しい感触に、胸の奥からあたたかいものがこみあげてくる。
        「ああ、痛くない」
        この十字の傷はきっと、一生消えずに残るだろう。
        けれど、心に刻まれた傷は、君が癒してくれた。
        「・・・・・・好きだよ」
        そう言って同じ場所に唇を寄せると、照れたように、君は微笑む。
        そうやって、君が隣で笑ってくれるなら。
        こんなふうに、君を想い続けることを許してくれるなら―――
        もう、痛くない。






                                                     
いつだって君が好きだと小さく呟けば傷跡も消えて行くのもう痛くない





        了。






                                                                                         2016.01.07








        モドル。