ほんの少しだけ、右手に触れてみた。
君は少し照れた笑みを浮かべて、そっと指を絡めてくれた。
ああ、そんなふうに笑うのがいけない。
君の表情、ただそれひとつで、脆くも理性は崩れ落ちるのだから。
「・・・・・・あ」
絡めた指はそのままで。もう片方の手を、君の腕の内側を撫でるように滑らせる。
着物の袖の中に入り込んで、くすぐる様に、二の腕に触れた。
「え、っと」
困ったような君の声を無視して、ぐっと顔を近づける。
びく、と慄えた君が反射的にそっぽを向く。
「きゃ!」
がらあきになった首筋に噛みついたら、君は小さく悲鳴をあげた。
「剣、心・・・・・・」
表情は見えない。けれど、昼日中から仕掛けられた悪戯に、きっと途方にくれているだろう。
君がまっすぐに想いをぶつけてくれるのをいいことに、俺の我儘はどんどん酷くなる。
「だ・・・・・・め・・・・・・」
組み敷いた身体の下、泣きそうな君はそれでも手を払いのけようとはしなかった。
「あ、んっ!」
「・・・・・・苦しい?」
無理矢理に胸元を押し広げると、君は眉を歪めた。
「拙者も、苦しいよ」
ねぇ、苦しくなる程の想いを抱えているのは俺のほうなんだよ。
静かに確かに、君を欲しい気持ちは嵩を増して。
ただひたすら、君への愛しさに埋もれてゆく。
積もり積もって、息もできないくらい―――苦しい。
「自分の力じゃ、どうにもならないんだ・・・・・・」
そう、この苦しさを和らげてくれるのは、ただ君だけ。
こうして抱いていれば、君のすべてを手に入れた気になれるから。
ずっとずっとこの腕の中、君のすべてを閉じこめさせて。
歪んだ視界は犯していいここにいるあたしを愛して必要だと言って
(了)
2012.04.08
モドル。