まつげ

     







        夜毎の夢に君が現れる。

        君は必ず泣いている。

        「お願いだから・・・・・・泣かないで」

        君の笑顔が好きだから、君には笑っていて欲しいんだ。

        これ以上泣かせたくなくて、危険に晒したくなくて、だから君から離れたんだ。

        「薫殿・・・・・・ねぇ、泣かないでくれ」

        濡れた睫に縁取られた黒い瞳で、君が俺を見つめる。

        腕をのばして狂おしく掻き抱いても、夢の中ではその感触は曖昧で、もどかしい。

        頬をつたう涙を舌ですくっても、震える唇に口づけても、君の味がしない。

        そもそもそれを知る前に、俺は君のもとを去ったのだから。

        好きだと伝える前に、さよならを告げたのだから。

        ぬくもりも音も感じられない夢の中、いつも覚める瞬間にだけ聞こえる君の声。

        「・・・・・・そばにいて・・・・・・」

        掠れた叫びが心を切り裂く。

        だから目覚めると胸が痛い。

        目覚めて残るのは、暖かさでも柔らかさでもなく、鋭い痛みだけ。

        「笑っていて、欲しいんだよ・・・・・・」

        君の笑顔が好きだから、せめて夢の中で、笑っている君を見たいんだ。

        なのに、瞼を閉じると浮かぶ君の顔は、睫の乾く間もなくいつも泣き顔。

        
―――ああ、わかっている、当然だ。

        最後にこの目に焼き付けた君は、泣いていたのだから。

        泣かせたのは他の誰でもなく、俺なのだから。



        


        モドル。