より道
「寄り道、していきましょう」
早咲きの桜が見たいの、と君が笑った。
黒い枝がまだ寒々とした木立。
それを見上げる横顔の、清冽な美しさ。
こんなふうに君の新しい表情を発見する度、胸が苦しくなる。
今まで流れ歩いて訪れる先々で、引き止められたことは幾度かあった。
けれど、本当にとどまったのは初めてだった。
人の過去にはこだわらないと言ってくれた、君。
でもいつか、俺の過去のすべてを知ったとしたら。
かつて愛した人までも、この手で殺めたことを知ったら。
それでも君は、変わらず俺にその微笑みをくれるのだろうか。
「上ばかり見ていると、転ぶでござるよ」
はぁいと答える君の髪がふわりと揺れて、ああ、綺麗だなぁと思う。
この人が好きだなぁ、と思う。
芽生えてしまった、胸の中の想い。
いつか堪えられず、破裂する日がくるのだろうか。
「剣心!ほら、あそこ・・・・・・」
寄り添うように咲いた、桜の花が二輪。
指差しながら、花よりも花のように君が笑う。
「・・・・・・咲いてる、でござるな」
この花が散る頃にも、俺は君の傍にいられるのかな。
いつか俺がこの街を去るときが来るとしたら、君は泣くのだろうな。
そしてその時、俺は君と別れる辛さに、耐えられるのだろうか。
―――でも今はそんな先の事は考えずに、君の笑顔を見ていたいんだ。
君とこうして過ごすのは、流浪人の俺にとっては、寄り道のようなひとときなのかもしれない。
だから、君を想うと胸が苦しい。
けれど、困ったな。
その苦しささえ、幸せだと感じるだなんて。
モドル。